見えないラジオ

赤の他人が顔も名前も知らないまま始めた雑談+ネタコーナー+曲紹介ラジオ番組

*

リスナーから見た『明るい夜に出かけて 佐藤多佳子著』

      2016/10/25

アルピーannをテーマにした青春小説、明るい夜に出かけてを一夜で読み終わりました。一言で言うなら「僕たちのためにありがとう」

私は普段の生活の中で本を読むことの優先順位はわりかし低い方ですが、この本は読まなければいけない、そんな義務感にかられて読んだ本です。2016年3月に終了したアルコ&ピースのオールナイトニッポンをテーマにした小説ということですが、これまでコーナーやトークをまとめたラジオ本というものはあったものの、ひとつの実在するラジオをテーマにした小説なんてあったのでしょうか。著者の佐藤多佳子さんもラジオのヘビーリスナーということで、それだけ人を動かす力のある番組だったのだと思い知らされました。

・ラジオ愛
数十ページ読み進めてすぐわかるのは、「この作者ホンモノのリスナーだ」ということ。とにかく佐藤多佳子さんがお笑いラジオを好きなことが存分に伝わってくる内容でした。小説内ではアルピーannだけでなくjunkやくりぃむann、その前身番組とも言えるくりぃむ上田さんの知ってる24時まで詳細に語られます。お笑いラジオファンならこの番組を選ぶセンスの良さはわかるはず。そしてその番組の面白さの説明と分析が「そう!そうなんだよ!」と同意したくなるほど的を得ている。アルピーannと似た雰囲気を持つラジオとしてくりぃむannはよく挙げられますが、この2番組の違いについて書かれてる部分は読んでいてハッとしました。「これならラジオを聞かない人でも理解してもらえる」と安心するとともに、「これラジオ聞かない人は面白いんだろうか」と不安になりました。

・家族
小説内ではアルピーannのコーナー、家族について触れられます。主人公富山は何度か採用されているが、ネタは比較的まともでカオスなネタは書けないとのこと。家族のコーナーは起承転結もぐちゃぐちゃで不気味で、でも最高に笑えるカオスなネタがおなじみです。カオスなネタを書ける職人に対するリスペクトはリスナーなら誰もが共感する部分でしょう。私も家族には何度か投稿していまして、小説内の言葉を使うと「家族専用機」でしたが、カオスな職人のようにどんな時にどういう思考回路で考えたのかわからないネタは番組終了まで書けないままでした。ですのでサイコボックスに入ったことのある職人さんには畏怖に近い尊敬の念があります。職人とはいっても顔も名前も知らない、実際に会ったこともない、ただ聞いているラジオでメールを読まれているだけの一般人なんですが、リスナーの職人に対するリスペクトや職人同士のリスペクトはとても強いものなんですよね。

・週に一回の楽しみ
舞台となるのはアルピーannがオールナイトニッポン一部で放送されていた2014年。あの頃は富山と同じく週に一回の放送を楽しみに生活していたなぁ、と読みながら懐かしく思い出しました。大学の講義に出るのもバイトに行くのも、この週に一回の楽しみがあるから踏ん張れる。明らかにラジオを中心に回っていた生活でした。大袈裟でもなんでもなくラジオが終了してから数ヶ月、週に一回の楽しみがない生活になかなか慣れることはできなかった。何度も過去音源を聞き返しました。それだけ生活の一部であり、精神的支柱だったのだと思います。週に一回のラジオがテレビや映画などのエンターテイメントに比べて特別なものである感覚は、投稿していてもしていなくてもラジオリスナーが持っている感覚じゃないでしょうか。

・ラジオネーム
富山は当初、現実での顔見知りにはなかなかラジオネームを言おうとしませんでした。リアルの生活での周囲からの認識とラジオネームでの認識は、別々の世界であって、別々のままでいいという考え方です。それが同じはがき職人に面と向かって出会うことで徐々に変化していくことになります。

私にもラジオネームがあり、ラジオやネット上ではラジオネームで認識されていますが、現実世界でラジオネームを言うのをためらう感覚はとてもよくわかります。別に恥ずかしいことではないはずなのに、もう一つの世界での顔を知られることはむず痒い。意識せずともラジオでの世界を聖域のように隠し持っている気分なのかもしれません。

最近はラジオに限らずSNS上で認識されることは多くなってきましたが、「どちらの世界に比重を置くか」といったふうに、生活の主軸に変化が起こっているのが現代なのでしょう。私は今現在ラジオ制作と音楽活動をネット上でしているのでネットと現実の割合が8:2くらいになってるような気がします。活動にかける時間の割合も、他人から認識される数、量の割合も8:2くらい。決して現実生活が何もないわけではなく、ネット上の活動が忙しくなっているのです。なんとなくこんな現状に後ろめたさのようなものを感じていたのですが、小説を読んでからはこれはこれで一つの生活の形なんだと思えています。ラジオに投稿するのも、ただ聞いてツイッターで実況するのも、ニコ動で歌い手をするのもいろんな表現・コミュニケーションの方法があるのが現代。そう考えるとラジオリスナー、はがき職人だって立派なもんです。

・ラジオの距離感とクソメン達
そういえば、深夜ラジオが所謂クソメン、パッとしない奴が聞くものってイメージはいつどこから生まれたものなんでしょうか。
私もアルピーの出待ちに行ったこともあるほどのリスナーですが、出待ちには「クソメン」な空気を醸し出している人はほとんどいませんでしたし、自分から言うことではないですが私もクソメンというほどの人間ではないはずです。リア充とは程遠いですが。そりゃあラジオを聞いてると言うだけで人間的に共通しているはずはないんですが、なんとなくラジオリスナーというと「クソメン」であって、「クソメン」の間では同じ世界を共有している仲間のような感覚を持ってしまう。テレビにも、SNSにもない、特殊でちょうどいい距離感を持ったコミュニティだと思います。この一定の距離感が心地よいのでしょうか。目立ちたいけど、目立ちすぎたくない。面白いのに、面白いともてはやされたくない。そんな自意識とプライドをこじらせた実は面白れぇ奴がはがき職人なんだと思います。

最後に1つ、作者に唯一物申したいのは、ラジオリスナーのクソメンにはこんなに女の子は寄ってきません…この物語からミミさん、佐古田がいなくなった世界が我々リスナーの住む世界です。でもリスナーにとってファンタジーのような、フェイクドキュメンタリーのような作品を書いていただいたことは嬉しいです。ラジオリスナーがやさしく肯定された、そんな小説でした。どこかで自分のラジオネームを知っている人と出会うかもしれない。そんなこと、あり得ない話ではない、と心の隅で思いながらこれからもメールを投稿していきます。カンバーバッチは持ってないけど、ステッカーどこかに貼って出かけてみようかな。

10月からはアルコ&ピースD.C.GARAGEで。何卒。

 

当ラジオでも話していますのでぜひ。

アルコ&ピースD.C.GARAGEスタート 明るい夜に出かけて 夜組 衝撃ラスト

 - ブログ , , ,

  関連記事

51okjpo9jnl-_sx348_bo1204203200_
ラジオをテーマにした漫画・小説・映画・音楽

ラジオを題材にした作品ってパッと思いつかないもので、調べてみると本当に少ない。ラ …

IMG_0490
番組終了後も続くアルコ&ピースのオールナイトニッポンシリーズ

自分でラジオを始めるほどラジオ好きになったきっかけの番組でもあるアルコ&ピースの …

cid_15873c0813b1aba7c274
随分とまんじゅう大帝国に寄ったエイトライブ感想

11/17日に開催された太田プロ主宰のお笑いライブ”エイトライブ&# …

thumb
日々によりけり その1「雨」

文章を書くことは好きで執筆に興味はあるのですが、オリジナルストーリーの小説となる …

cusyhmivmaatsz3
今最も話題のアマチュア芸人『まんじゅう大帝国』

先日”あの”まんじゅう大帝国をついに生で観てきましたよ! …

2016年ベストアルバム20選
2016年ベストアルバム20選【ブログ版】

今年はあまり音楽を聞き漁る時間はありませんでしたが、AppleMusicのおかげ …

6552c8a92552400cc6afa8ad159c4491-600x299
爆誕! アルコ&ピースD.C.GARAGE

待ちに待った復活の時は思ったより早かったようです。ニッポン放送、アルコ&ピースの …

o0673096013710410619
現実VS虚構 シン・ゴジラの絶望感 (ネタバレ感想・考察あり)

先ほど観てきましたシン・ゴジラ。震えました。とてつもない迫力と絶望感がありました …

illust3166
日々によりけり その2「歯」

新庄の歯ってなんであんなに不自然なんでしょうか。「新庄の歯」と聞くだけで誰もが思 …

63e286_e9790b1c52cb489c91ca6ad3982b5525-mv2_d_3508_2480_s_4_2
喜劇な悲劇 月刊「根本宗子」

演劇の良さはライブ感、客席という位置で舞台の一部となって感じる迫力であって、テレ …